苺農家 廃業

実家の倉

 実家から苺が届いた。2箱。最後の苺になるだろう。
 実家は苺農家だ。そして、今シーズンで苺農家を廃業する。母親が死んでもう少しで2年になる。潮時なんだ。
 妹は今年の3月から農協で事務員をしている。父親は苺のシーズン終わりと共に、6月から農協で嘱託職員になる。農業が生活のすべての家庭なんだ。
 何事にも終わりがある。俺はあんまり好きじゃなかった苺が、今になって恋しくなった。
 クール便ではない、常温の宅急便で送られてきた苺。少し傷んでいた。実家で食べたあの味とはまったく違う味。それは宅急便が運んだ時間のせいだけではないはず。
 終わりなんだ。これから先、生活や状況は、今よりもっと安定するだろう。だけど、そうじゃない。終わりってことに随分と感傷的になっちまった。
 そんなことばかり考えて、川崎の1人暮らしの部屋に1人。