酔仙、陸前高田、岩手


 酔仙酒造の酒。誰にも言わないで、必死扱いて探した2本を持って帰ってきた。
 1本は俺の父親に。1本は会社の先輩であるT.I.に。俺を育ててくれた、尊敬するオヤジ2人に贈りたかったんだ。
 涙も涸れるくらい悲惨な陸前高田市。その思い出を、少しでも美しい形で手渡したかったんだ。一緒に飲みながら、現地の話ができれば、最高だろ。
 な、いいだろ。酔仙、陸前高田、岩手、許してくれよ。俺みたいな人間は不謹慎かもしれない。だけどさ、あの悲しみを伝えたかったんだ。許してくれよ。
 他人事の連中が多すぎて、俺は本当に嫌気がさしてる。品川に戻ったら、俺も元に戻ってしまうんじゃないのかと不安になっている。だけど、あの2人ならきっと俺に何か授けてくれると思っている。
 だから、今は不謹慎にも酔っ払ってやりすごそうとしているんだ。